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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)8933号 判決 1961年11月18日

被告 総武信用金庫

事実

原告三菱石油株式会社は、被告新日本テレビ技術株式会社(以下被告会社という)が昭和三十四年五月三十日原告に宛て振り出し、且つ同日被告総武信用組合(以下単に被告組合という)が支払保証をなした額面金五百万円の約束手形一通の所持人であるが、右手形をその支払期日に支払場所に呈示して手形金の支払を求めたところ、取引停止処分により解約後であるとの事由で支払を拒絶された。よつて原告は被告等に対し、右手形金及びこれに対する支払済までの遅延損害金の支払を求める、と主張した。

被告新日本テレビ技術株式会社は原告主張の請求原因事実をすべて認めたが、

被告総武信用組合は答弁並びに抗弁として、被告組合築地支店長望月銀作(以下単に望月支店長という)は、原告の本件手形取得当時その権限が制限され、手形保証をする権限を有しなかつたものであるから、同人のなした手形保証は無権代理行為であり、被告組合には原告主張のような責任はない。しかも原告は、望月支店長に手形保証の権限のないことを知つていたものである。即ち、原告が本件手形を取得した当時においては、銀行、信用金庫及び信用組合の支店長は手形保証をしない商慣習が存在していたのであり、原告は支店長の支払保証なるものが、当時全然見ることができないものであるということを知り、従つてまた、被告組合において望月支店長が手形保証をなす権限がないことを知つていたものである。而して、被告組合は中小企業等協同組合法上の信用組合であるところ望月支店長は単に会計主任であり、参事ではないから、同法第四十四条第二項所定のとおり商法第四十二条の準用はなく、従つて、同法第四十三条の準用はないと解すべきであるから、被告組合には何らの責任がないと抗弁した

理由

被告会社は原告主張の請求原因事実をすべて認めて争わないから、次に被告組合の抗弁について判断する。

中小企業等協同組合法によれば、同法上の信用組合の参事については、商法の支配人(表見支配人を含む)に関する規定が準用されるから、右信用組合の支店長については、たとえ、その者が参事でなかつたとしても、当該支店の参事と同一の権限(右信用組合に代つて、右支店の営業に関する一切の行為を行う権限)を有するものと見做され、且つその代理権に加えた制限は、これをもつて善意の第三者に対抗することができないといわなければならない。

被告組合は、前記信用組合の支店長に商法の支配人に関する商法の規定の準用があるのは、参事たる支店長に限り、その他の支店長、例えば会計主任たる支店長には準用がないと解するもののようであるが、中小企業等協同組合法が、参事について商法の支配人に関する規定を準用しているのは、組合が参事(支配人と同人の権限を有する者)でない者に支店長等、支店の営業の主任者たることを示すべき名称を付した場合に、その者が右支店の営業に関し、一切の行為をなす権限を有する者と信じてその者と取引をした第三者の取引の安全を保護する趣旨に出でたものであることは論を俟たないところであるから、被告組合の前記見解は前記法条の文理上は固より、右法条の設けられた趣旨からいつても到底これを採用することはできない。

ところで、被告組合が中小企業等協同組合法上の信用組合であること、並びに訴外望月銀作が被告組合築地支店の支店長であつたことについては当事者間に争いがないから、同支店長は、仮りに参事でなく、会計主任であつたとしても、被告組合に代り、右支店の営業に関する一切の行為をなす権限を有するものと見做され、且つその代理権に加えた制限は、これをもつて善意の第三者に対抗することができないものといわなければならない。

ところで被告組合は、望月支店長はその権限が制限され、手形保証の権限を有しなかつたものであり、且つ原告は悪意であつたと主張するので、この点について判断する。

前記望月支店長が被告組合からその権限を制限され、手形保証について何らの権限を与えられていなかつたことは証拠により明らかである。

そこで次に、原告の悪意の点について判断する。

証人佐藤慎一の証言によれば、同人は原告会社に勤務する以前、神戸銀行に在勤していたが、右神戸銀行においては、手形保証をなす権限を有する支店長は特定のいわば大支店(例えば東京支店、大阪支店)の支店長に限られていたこと、右佐藤が神戸銀行の銀座支店在勤中においては、銀行の支店長が支払保証をした手形を見たことがなかつたこと、並びに右佐藤は、本件手形に望月支店長名の支払保証がなされているので、同支店長の手形保証の権限の有無につき第三者を介して被告組合本店に照会したこと等を認めることができ右認定の各事実に、右佐藤は、銀行員として約三十年の経歴を有し、手形割引について十分の智識を有することを併せ考えると、右佐藤は望月支店長が、手形保証をなす権限を有するか否かについて或る程度の疑を持つていたであろうことはこれを推認することができる。しかしながらそれ以上に右佐藤が望月支店長が手形保証をなす権限を有しないことを認識していたという点については、本件全立証によつてもこれを認めることができない。現に、証人塚本行の証言によれば、前記のように佐藤が第三者を介して右塚本(当時被告組合本店預金課長代理)に対し望月支店長が手形保証をなす権限を有するか否かについて照会をしたのに対し、右塚本は、上司が不在中のため分らない旨回答したとのことであり、又、証人本田兼彦も右塚本から右の趣旨の報告を受けたので、直ちに望月支店長に訊したところ、手形保証をしたとのことであつたが、一、二日中に取り返すから待つて貰いたいとの同支店長の願を容れ、原告には、右支店長の無権限であることについて、何らの通告をなすことなく終つた旨証言している。

以上の理由により、原告が望月支店長に手形保証の権限がないことについて悪意であつたとする被告組合の主張は、その立証がないといわなければならない。

してみると、被告会社は本件手形の振出人として、被告組合は右手形の支払保証人として合同して原告に対し本件手形金五百万円及び右に対する完済までの法定利息を支払う義務があるというべきであるから、原告の被告両名に対する請求は正当である。

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